2015年6月11日 ベリュウ家(リムー)
カルカッソンヌのホテルを出発し、午前中はリムー近くのベリュウ家へ向かいます。 これまではどちらかというと平野やゆるやかな丘陵にぶどう畑がある農家ばかりでしたが、ベリュウさんの畑までは切り立った山間の細い道をぐんぐん進んで行きます。


渓流にかかる石橋を渡ってすぐ、ラボエーム用のモーザックという品種と、カイロル用のカベルネソーヴィニョンが植えられた畑に到着しました。

プロヴァンスに比べると、標高の高いこちらの畑ではまだ小さな花が咲いている房もありました。鼻を近づけるとほのかな香りが感じられます。

ベリュウさんの畑では、雑草は畝の1列ごとに残して抜いているそうです。全ての畝に雑草があると、夏にぶどうが必要な水分まで全て吸ってしまうから。 自然に近い形でのオーガニックのぶどう栽培は、薬品に頼ることができません。だからこそ生産者さんたちのより良いものを造りたいという思いと創意工夫が随所から感じられます。

醸造所へ向かう途中に、ドラム缶に入った水を見つけました。実はこれもぶどうの栽培に必要なものですが、もちろん科学的なものは入っておらず、イラクサやシダ科の植物を水に浸したもので、病気対策や栄養の補給に利用するのだそうです。

少し歩いて、石造りの醸造所に着きました。小さな2階建ての建物に入ると、天井から吊るされた四角い装置や、ワインを装てんできるような機械が目に入ります。


上は甘口スパークリング、ラ ボエームの澱引きをするための装置です。逆さまにした瓶の角度を少しずつ変えて澱を溜め、最後に塊になった澱を抜くという作業があるのですがそれを効率よくする工夫のひとつ。 隣にあったのはその澱抜きをしたときに減った分のワインを足すための機械です。

コルクの打栓機も見せてもらいました。スパークリングワインのコルクはもともとこのように太く、圧力をかけて押し込むことで下が窄まり私たちのよく見慣れたキノコ型になります。


ベリュウさんは「ナチュール&プログレ」というオーガニック団体の会長を務めたこともあり、醸造所の看板やコルクなどにも団体のマークを見ることができます。 東洋の陰陽などの考えも取り入れた、自然に沿った農業であることを感じさせます。

ぎしぎしとなる狭い階段を上ると、2階には発酵用のタンクが並んでいました。 ラボエームは3つのタンクを経て造られています。

ワインになるぶどう果汁を冷やして落ち着かせるためのタンクにはホームセンターで購入した断熱材が巻かれて手作り感満載です。 ぶどうそのものの甘さが残っているラボエームですが、糖分があるうちは酵母がアルコール発酵を続けています。そこでちょうど良い残糖分になったところで、ろ過して酵母の動きを止めるのだそう。


その残糖分を記録しているのは……ダンボールの切れ端に、マジックで手書きです。先ほど見たコルクの打栓機などを振り返っても、本当に1本1本手作りで造られているのだなと実感しました。
樽ではマヴィでも大人気のカイロルが熟成中。樽に入れてから1年ほど熟成させるそうです。

ところでベリュウさんといえばマヴィの中でも保存料としてSO2(二酸化硫黄)を一切使わないのが特徴です。 保存料がなくても美味しさを保てるのは、赤ワインに含まれるしっかりしたタンニンや、スパークリングワインの泡である二酸化炭素がうまく働いているからと考えられます。 ベリュウさんによると、保存料を使わずに白ワインを造ってみたところ、納得のいく味にならなかったから造るのをやめてしまったそうです。
1階に戻ってベリュウさんのワインを試飲することになりました。 通常であればスパークリングワインのラボエームのあとに赤ワインのカイロルを飲むところですが、やはり甘く香りの印象も強い甘口の後では、赤ワインの繊細な部分の味わいが捕らえにくいとのことで、今回はカイロルから試飲します。

しっかりとしながら、やはりどこか優しく、体にじんわり馴染んでいくような味わいです。
次にラボエームをいただくと、やはり女性の方が多いツアーメンバーからは歓声が上がりました。優しい泡とシードルのような甘い風味が広がります。
ベリュウさんが珍しいボトルを持ってきてくださいました。わざわざ蝋の口を叩き割って出してくれたこちらは「カルタジェンヌ」というもので、甘いぶどう果汁にぶどうの蒸留酒を加え熟成させたリキュールです。 地元ではアペリティフや食後酒として楽しまれています。もちろんオーガニック。日本未発売のワインを楽しめるのも旅の醍醐味です。

醸造所で使われている電気は、エコでクリーンな発電所から購入していて、ブレーカーに説明が書かれていました。

山の上にそびえる村からの眺めは絶景。さきほど見てきた畑もよく見渡せます。

ロックタイヤード村は中世の石造りの建物が並ぶ古い村で、ベリュウさんの家も元は廃墟だったものを少しずつ改修していったのです。
こだわりを持ちながら、その温かいお人柄で私たちを迎えてくれたベリュウさん。ありがとうございました! この日は1日で2軒の農家を回る予定なので、名残惜しく思いながらもベリュウ家を後にしました。
次はスペイン国境にほど近い、ペルピニャンのブーリエ家に向かいます。