ブーリエ家
ブーリエ家のプロフィール
フランス・ルーション
シャトー ド ルー
Chateau de l’Ou
1998年から
スペイン国境にほど近いフランス・ルーション地方で1999年からワイン造り。畑は34ha。ボルドー大学で醸造学を修めた奥さんとボルドー大学農学部出身のご主人は、常に完璧を目指し、伝統的なものから斬新なものまでワイン造りに夢中。
ブーリエ家の詳しい情報
【オーガニック歴】認証は1998年より
スペイン国境にほど近いフランス・ルーション地方で1999年からワイン造り。畑は34ha。ボルドー大学で醸造学を修めた奥さんとボルドー大学農学部出身のご主人は、常に完璧を目指し、伝統的なものから斬新なものまでワイン造りに夢中。
ブーリエ家について
黄金比率、マヴィオリジナルワイン…数々のヒットを放つ、完璧主義者の造り手
スペインに程近い南仏で、家族で経営されている農場。ご主人のフィリップさんが家族が経営する保険会社と畑とをかけもちしていらっしゃるため、現在は主に奥様のセヴリーヌさんが畑の面倒を見ています。
国境近くらしく、異国情緒満点
ご主人のフィリップさんは、オーガニック運動のメッカ、ラルザック Larzac 出身です。彼は農業技師で、農業に熱中しています。畑への投資が落ち着いて本腰を入れられる状況になったら、今のお仕事もやめて、ワイン農家一本にしていくそうです。
一方のセヴリーヌさんは天下のボルドー出身、ボルドー大学で醸造学を修めた女性です。彼女はワインに夢中で、担当はもちろん醸造。この、「生まれ変わってもワインが造りたい!」という農業と醸造のどんぴしゃカップルには2人のお子さん(ルカ6歳、フロリーヌ4歳、2004年現在)がいて、既に2人ともにワインを味わい始めているというなんとも頼もしいエピソードも伝わってきています。(フランスでは、水でワインを薄めたりして、かなり小さい頃からワインを飲みます。いたって普通のことで、不良とかではないですよ!)
ブーリエ家の34ヘクタールの畑は非常に古い歴史を持っています。なんとテンプル騎士団が近くの川を掘りこして作った土地だそうです。ロマンを感じます!(何か埋まっていたりして。。。)お陰で魔法がかかったのか(?)、猛暑でどこも収穫量が減った2003年も、ここでは例年通り。よそがたくさん獲れる時は逆に少なかったりで、いつもよそと違う結果が出るのよ、とはセヴリーヌさんの談。
気候は地中海性気候で、暑く、乾燥しています。冬に霜が降りることはめったになく、夏は暑い。景観は、南・北・西側は山があり、谷が多く、東側には海があります。近辺には、ペルピニャン、コリウール、エルヌ等の町、ヴィルヌーヴのサンジュリエ教会といった有名な場所があります。ご夫妻がこの土地で気に入っているのは、カニグー山(Le Canigou)、多くのロマネスク様式教会とその歴史があることだそうです。
畑から眺める景色
美しいカニグー山
朝起きて、海からの日の出を見、夜寝る時にカニグー山へ沈む太陽を見る。自然と調和し、自分たち自身で、風景を作ることができる仕事。とても夢中になります。カニグーはカタロニア人にとっての神聖な山で、私達の土地の上に聳え立っています。カタロニアの富士山といえるでしょう!
夫妻はここの土地を1998年に買い取り、1999年に最初のワインを造りました。畑購入時からずっとオーガニック農業を続けています。
ドメーヌを買った当時は、圧搾機も木のものしかなく(最近ではなかなかお目にかかれません)、毎年少しずつ投資してきているとのことです。まず2000年に圧搾機を買い、2001年には房から実を外す機械や、除草機などを購入。次は収穫したぶどうを直接タンクに送るベルトコンベアのような機械があるのですがそれを買いたいということでした。設備とともに、ぶどう造り、ワイン造りも着実に改良してきています。
シャトー名「l’Ou」の由来は、ドメーヌ内に馬に飲ませるための卵形の溜池があって、それが有名だったということ。卵はフランス語ではl’oeufですが、カタロニア語だとl’ouになります。
セヴリーヌさんは実に情熱的な女性。筋の通った完璧主義者、という印象を受けます。と書くと、少々怖そうですが、実際はとても感じの良い人。マヴィの生産者のどこかにワイン造りを学びに行くのなら、間違いなくセブリーヌを選ぶと思えるくらい、その情熱と仕事ぶり、惜しみなく伝えてくれる姿勢などがすばらしく、いつ行っても必ず何かを得ることができる貴重な相手です。
また、セヴリーヌさんは本当にお料理上手の切り盛り上手。畑(雑草対策・病気対策、若木から年寄りの樹まで、やらねばならないことは本当にさまざま。畑専門でやってくれている人が一人いるとはいえ、約40haの畑を切り盛りして、しかも知り尽くしているのだから本当にすごいとしか言いようがない!)、醸造所・販売(私たちが訪れている間も何人もの人がワインを買いにドメーヌへ。そのたびに相手をするのはセヴリーヌさん。
皆さん数ケース買っていかれるのが日本と違うところ)、メールチェック、主婦としての食事づくりや掃除・洗濯、そして子どもの面倒も。よくまあこれだけのことを一度にこなしているなあと驚くほどです。
こんなに大変そうなのに、毎回いつのまにかステキな料理を用意してくれていて(訪問したスタッフが「今まで訪問した中で一番の食事、ものすっごい美味しい!」と感激するほど(笑))、本当に感服です。
アーティスト的要素もすごくあって、ワイン造りへのこだわりももちろんそうだし、部屋の飾り付けや食器類など、何をとってもすごくおしゃれ。女性としても本当に見習うところの多い人です。
裏の野菜畑は、もっぱらフィリップさんのお父さん、ルイさんが担当。お蔭様でほとんどの野菜は買う必要もなく、全部オーガニックで手に入るのよ、とのこと。細かく刻んだトマトとズッキーニ、コリアンダーにオリーブオイルをかけただけのサラダも驚くほどおいしくて、炭火で焼いてくれた鯛と抜群の相性でした。白もロゼもどちらもOK。
セブリーヌさんが造りたいと思うワインは、しなやかで香りがあるワイン。また、人を喜ばせるということをとても大切に考えています。だから、これまで通りのものを望む人のためには、ずっと同じものも造っていく反面、新しいものを求める人に期待にも応えるために、新しいワインも造りだしていきたいそうです。ディヴィンヌ プロポルシオンは、そんな創造の1つで、自分でいくつも色々なぶどう品種の割合を試した結果できたもの。
ぶどうの育て方について
- 現在はオーガニック認証を受けた肥料を購入しているが、いずれ肥料も自家製にしたいと思っている(現在鶏を50羽程度、鴨、豚を飼っているので、その糞を利用する予定)。
- 昆虫の害については、自然のバランスが良いのでほとんど問題はない。野生のアスパラガスが生えてきたり、いろいろあるわよ、とのこと。一部の手強い虫対策には、フェロモンなどを使う。
- 他の農家同様、ベト病*にはボルドー液**、うどんこ病*には硫黄(粉)**を使用。ただし量を最低限にできるように、風通しをよくしたり(下の方の枝を持ち上げたり、日があたる方だけ残して片側の葉をすべて取り除く)、夜にまくようにしている(夜は風が収まるので、強風によって薬が吹き飛ばされないように)。
注*ベト病、うどんこ病…ぶどうにとって致命的な病気
注**ボルドー液、硫黄(粉)…規定によりオーガニック農業で認められている薬
- ぶどうができてもワインにしない3年間(規定では3年目からワインにしていいが、ブーリエ家では少なくとも3年目までは実がなってもすぐにとって、樹を成長させる)は水もまくし、樹を植えて6~7年はマルチ(ビニールシートのようなものを畑に張って雑草を出てこなくさせる方法、土の温度を保つ効果も)を採用。これまで生分解性のものがなくて仕方なく市販のビニールを使っていたが、ようやく生分解性のものが市場に出始めたので、今後はもちろんそちらを使うとのこと。
- 樹齢が65~70年のカリニャンについては、畑の位置によって、今年を最後に抜くものと、そうでないものがある。まだまだいい品質のぶどうを作り出してくれる畑のものは、剪定の仕方を工夫し、若返らせる等の工夫をしつつ、様子を見たいと思っている。 樹を抜いた後、次の樹を植えるまでに少なくとも3~4年は寝かせるそう(今のところは、何もせず放置→雑草等好きに生えるにまかしているが、近所に農業をする若者が越してきたので、その人が引き受けてくれそうなら、ぶどうを植えない期間穀物とかを植えるようにするかもとのこと)。
- この強風はプロヴァンスのミストラルに匹敵するトラモンタンというもの。このお陰で湿気の悩みはあまりないが、反面ゴブレ(支柱やワイヤーなどを使わない短梢剪定)で育てている木は枝が折られてしまったり、9月にトラモンタンが吹けば、糖度が簡単に0.5度くらい増えてしまうくらいすさまじい。
- ゴブレと垣根式の両方を採用。品種や樹齢によって選んでいる。ゴブレは耕すときに2方向からできるのがいい、とのこと。
ゴブレ式
垣根式
- ぶどうの樹齢は10~65年。
- 葉が黄色になっている木を見かけたので、何かの病気?と尋ねると、鉄分不足という返事。ただ面白いことに毎年違う株がそうなるので、株がそれぞれ自分に必要な栄養を取りに行くはずと推測し、わざと放っているそう。
収穫について
- 全量手摘み(約25人で3週間。最初は30人で始めるんだけど、たいてい何人かは途中でいなくなっちゃうわね、とのこと。また、近隣の2農家とともに1グループの人たちを採用し、3農家で収穫をする日としない日をうまく調整して、約1ヶ月半、その人たちに働き続けてもらうようにしているそう)。
- 収穫開始はシャルドネが一番早くて、8月の28~30日くらいに開始。
- 白ワイン用の収穫は朝5時くらいに始めて9時には終了。ロゼ(シラー、カリニャン、グルナッシュ)用の収穫のときも早くに始めて早く終わるようにしている。
- 赤は一般的なんじゃないかしらとのこと(7~10時でいったん休憩。続いて12時まで、昼休憩の後、1時から4、5時まで)。
醸造について
- 醸造は品種ごと、畑ごとに行う(自分で状態がよくわかっていて2つの畑を一緒のタンクに入れることはもちろんある)。
- 小さいタンクがないのが悩み。投資したいものの1つ。
- 2004年のシャルドネは樽に入れてみた。けれど、すべてのワインにいえることだけど、「樽漬け」には全くしたくないし、決して樽香というものはワインの悪い部分を隠すものであってはならない。だから新樽も焼きは少なめ。
- パーフェクトを求めているので、気にいらないものは売らない。失敗は嫌い。
- 2008年のマヴィ10周年の際、協力してもらい、現地で商品担当もアッサンブラージュしてつくった、記念ワインのカベルネソーヴィニヨンと、たまたま同時期に入荷した同じ2006年のカベルネソーヴィニヨンを飲み比べてみたら、同じ人が同じ年に、同じ品種100%で造っているにも関わらず、あれだけ味が違うのに本当に驚いた、という話をしたら、「確かに醸造技術者でさえ驚いているけれど、畑を知り尽くしていれば自ずとできることよ」と、さすが強気なお返事。
… と、ワインについて語るまなざしは真剣そのもの。しかし趣味の中には「子供の面倒を見ること」、夢はと聞くと「2人の子供、ルカとフロリーヌが幸せになること、また、彼らが自分達の跡を継いでくれることもいいですね」と、柔らかい表情。この強さと優しさが、ワインに素敵なスパイスを加えているのでしょうね!
最後に、日本の皆さまへのメッセージを頂きました。
「私達が造り上げた時と同じくらい、ワインを楽しんで飲んでくださいね」
スタッフの訪問記【2010年7月】
フランスの地中海側の南の端、ナルボンヌとペルピニャンの間には、まるで海の上を走っているような感覚に襲われる線路がある。列車の窓の両端はいずれも水面。何とも不思議な光景……けれどもこんなステキな景色に気付いたのもブーリエ家からの帰り道。行きは私の乗った列車の前を走る列車に事故があり、遅れに遅れて、パリからただでさえ5時間かかるところ、8時間に及ぶ長旅にすっかり疲れ、窓の外の美しい景色をのんびり眺める心のゆとりも気力もなくなっていたらしい。
ブーリエ家を訪れるのは、これがもうかれこれ6度目。初めて訪れた日のことも昨日のようによく覚えている。まっすぐで、失敗が許せなくて、いつも完璧を求めるセヴリーヌと初めて対面したのは2005年。2008年にはバイオディーゼルアドベンチャーで世界一周中だった山田周生さんとともに、バイオディーゼルカーで天ぷら油を集めつつ、バルセロナのサグラダファミリアのあと、ここシャトー ド ルーにやってきた。同じ年、9月には赤坂店の野口店長、札幌店の渡辺店長とともに再度訪問。いつやってきても思うのが、ここで私は本当にワイン造りについて、実に多くを学んでいるということだ。
夕方に差し掛かる頃着くはずだった私が実際に到着したのは、既に夕食の時間。子どもたちがヴァカンスに出てしまってセヴリーヌとフィリップの夫婦水入らずだったこともあってか、今日の夕食は珍しくレストランへ。これまでは料理上手のセヴリーヌがいつも腕をふるってくれたから、ちょっと驚きだったけれど、夏本番のこの時期に、海辺のレストランで食事を、との粋な心遣いだった。「ここはね、私たちが大好きなレストランなんだけど、夏には全然来ないの。冬の間は休業するこのレストランが、春の声を聞いてオープンしてすぐの、まだ誰もいないとき、そして収穫が終わってほっとして、この店のシーズンも終わってそろそろ閉まるかという11月の直前に、収穫の大変だった毎日を労いに食べに来るのよ。」とセヴリーヌが説明してくれた。
スペイン国境に近く、元々はカタルーニャ王国の一部だったこの地方では、スペイン風の料理(というか、カタルーニャ料理なんだけれど)も多い。タパスのようにいくつかの前菜とグリルされたたっぷりの魚を地元の白とともに楽しんだ。
海辺のレストランとその料理
そこで話したことはたくさんあるけれど、特に印象的だったのが以下のやりとり。
私:「私はね、あなたたちのドメーヌに来るのがすごく好きなのよ。それはね、本当にいつもたくさんのことを学べるからなの。」
セヴリーヌ:「だってね、私はあなたの立場がよくわかるからよ。私はぶどう農家の娘ではないし、小さい頃からこの職業を見て、聞いて育ったわけじゃなく、全部一から学んだのよ。それはね、自動的には起こりえないことなの。一つ一つ質問して、教えてもらって初めてわかっていくものなのよ。だから私は余すところなく伝えたいと思うし、それが好きなの。」
私:「そうね。ワイン造りをする人にとっては当たり前すぎて、疑問にも思わないことも一般の人にはまったく未知のことが多いものね。それをいろいろ質問しても、気持ちよく、とても丁寧に説明してもらえるから、本当にありがたいと思っているわ。」
セヴリーヌ:「一からすべて学ばなくてはならないことは大変だけど、いいこともあるのよ。私たちは、これがいいんじゃないかって思う方法をいつだって試してみることができるの。これが代々続いているような家庭だと、両親たちが『いや、これはこうやるんだ。他の方法はない。』などと言い出したりして、新しいスタイルや新しい味を生み出すことが難しかったり、それどころか他の方法を試してみようという発想さえなかったりするのよ。私は同じことの繰り返しは好きじゃない。ありがたいことにこの仕事は、本当にいつも決して同じ事態は起きないし、改良できるところがいっぱいあるし、もっともっと上を目指したいと思ってそれに取り組めるのよ。」
セヴリーヌのワインにかける情熱は、本当にすごい。そんな彼女へのご褒美とも言うべき出来事が、私の到着する前日に起きていた。醸造技術者のみが審査員で、ものすごい数の観点からワインを評価するコンクールで、アンフィニモン「無限」が優の評価を取ったのだ。
「このコンクールはね、私がワイン造りを始めたときからずっと、絶対にこれで賞を取りたいと思っていたコンクールなの。本当にワインに精通している確かな人たちがありとあらゆる観点から評価するわけで、ここで認められるということは、プロの醸造家としては本当に誇りに思えることなのよ。造り始めた最初は自分でもこのコンクールに出願するのはおこがましいと思ってた。去年はいい出来だと思ったけど、登録が間に合わなかったの(笑)。で今年、蔵に来てくれているパートナーの醸造技術者に『どうかしら?』と相談したら『いや、これは出品するべき作品だよ。』と言ってくれて、そしたらこの結果が出た。いつか必ずグランプリを取りたいって、本当に思っているの。」いや、きっと間違いなく、彼女ならいつかグランプリを獲得するに違いない。
でも何だろう、まだ無名の俳優さんのファンだったのに、いつかその人がどんどん有名になってしまうのを、喜びたい反面ちょっと残念に思うみたいに、彼女がどんどん醸造家としての成功を重ねていって、私たちの手の届かない人になっちゃうんじゃないかしら、なんて今から不安に思ってしまうほど、彼女の情熱と腕、確かな舌と感覚は誰にでも備わっているものではないとつくづく感じる。
アンフィニモンのマグナムボトル
これだけの情熱を傾けられる毎日って(しかも彼女はお母さんでもあるから、ただ畑と蔵だけを往復しているわけではない。ご主人のフィリップはまだまだお父さんの跡を継いでやっている保険会社の仕事が忙しいから、畑のこと、ワインのこと、家のこと、子どものこと、ほとんど一手に引き受けているのだ…まさにスーパーウーマン。それでいて、おしゃれで美的感覚は抜群、とても女性らしくかわいいところもあるから「ずるい」と言いたくなる。)普通の人の何倍も生きている実感があるのではないかしら。同じ女性としてもまぶしいし、応援したいし、負けずにいたいなあと思う。
今でも十分すごいのに、まだまだ働き足りないとでも言わんばかりに、彼女の取り組むプロジェクトは限りない。
■ラングドックルーション地方の女性醸造家の集まりを立ち上げて、いろいろ活動が始まったらしい。
■近隣の幼稚園や小学生に入ったばかりの子どもをバスで受け入れて、小さな手で収穫を体験してそのあと自分の手で絞ったぶどうジュースを飲む体験をさせてあげたらしい。「これをすることでね、彼らにとっては、もうぶどうジュースは単なるパックやビンに入ったものではなくて、どんな風にできているものなのか、しっかり頭に残るのよ。広い畑で迷子になったら大変だし、気が気でないけれど彼らにとっても、私にとっても、本当にすばらしい体験よ。」
■さらには、地元の農家を3~4軒めぐってそこに泊まって、その地方の良さを味わうツアーのようなものが、今地域でしかけられつつあり、来年春からはそれも始まるそう。
カーヴの改良と新たな建設はもう数年間に渡って取り組まれていて、また今年も変化があったし、その構想は壮大。屋根には太陽光発電のパネルを設置する予定らしい。また通常の畑の世話はもちろんのこと、畑でも古くて良くない樹を抜き、新たな苗が植えられていた。樹が根付いてしっかりと育つまでの間というのは、本当に手間がかかるらしい。あるべき姿に仕立てていかねばならないし、ちょっとしたことで枯れたり、病気にかかったりしてしまうリスクも高い。人間と同じで、親がずっとそばについて見守らないといけないのだ。それが新たに5ヘクタール。さらに来年も数ヘクタールが見込まれている。
そして、今年の一番のチャレンジが、ドメーヌ外の新たな畑の購入。今ある畑から少し離れた北の方に、ぶどうの生育には申し分ない、このセヴリーヌに「ひと目で恋に落ちた」と言わせるほどの土地がある。そこの畑を購入したというのだ。それはひとえに、もっとさらに品質の高いワインが造りたいから。土壌も天候も今ある畑とはまるっきり違う場所の畑を手に入れることで、バラエティを広げたいし、上質を極めたいという彼女の野心と情熱がこの選択をさせたらしい。最初から量など狙ってはいない。あくまでアンフィニモンを超えるようなワインのためだ。
そもそも短い予定だった滞在が列車の遅れでさらに縮められたにも関わらず、今回も実に多くのことを学び、見せてもらい、そして何よりたくさんの刺激をもらってきた。どの生産者も野心的でどんどん新たなプロジェクトや良いワイン造りに向けて一生懸命だから、誰からも目が離せないのだけれど、彼女の場合はそんな中でも私にとって別格の人。ひいきでも何でもなく、ただ魅力的だから注目せずにはいられない。
そんな彼女はおまけにもう1つステキなことを教えてくれた。
駅に迎えに来てくれたフィリップを見てびっくりした。というのも、ひとまわりやせていたから。思わず「やせたんじゃない?」と聞くと、「うんやせた。ダイエットを始めたんだよ。」と。よく聞いてみるとセヴリーヌと2人、とにかくたんぱく質をたくさん摂って、糖分・油脂を極力控えるダイエットを始めたとかで、何とフィリップは10kg、セヴリーヌも8kgの減量に成功したという。
「すぐ結果が出るのがこのダイエットのいいところで、やりがいがあるのよ。しかもたくさん食べなくても平気になったし、体が軽くて動きも楽だしいいことだらけ!」と。
やっぱりこのドメーヌでは学べることが満載だ…。
レポート:2010年7月(長谷川浩代)
ゴー ミヨーガイド 2009-2010紹介記事
ゴー ミヨー(Gault Millau):フランスのミシュランに並ぶレストランガイド。
ラングドック ルーションの新星、フィリップ&セヴリーヌ ブーリエ
「人間とは、感性と行動という二つの情熱的な要素のうえに成り立っている。」リュック フェリーのこのメッセージこそ、我らがラングドックの新星を言い表している。フィリップとセヴリーヌのブーリエ夫妻は共通の情熱、すなわち「ワイン」に支えられた強い推進力とエネルギーを放っている。けれども彼らの今は時とともにつむがれてきた。農業技師であるフィリップは、故郷のカタローニュからはるか遠く離れたブラジルでその経歴をスタートさせた。1995年にフランスに帰国、その当時からオーガニックに関心が高く、1998年にドメーヌを購入。
片やセヴリーヌはアフリカで育ち、その後ワインに関心を抱くことになるボルドーへ。BTAとBTSの資格を得た後、今の生活につながることになる南仏へと心ひかれる。そして2004年二人はとある展示会にて出会い、彼らのプロジェクトが形になったわけだ。フィリップは畑の仕事と家族経営の保険会社を経営、セヴリーヌはカーヴでの仕事と販売に携わる。二人は共通の課題を分かち合っている。それは「最高の仕事を施された味」を追求することだ。
この情熱的なオーガニックワイン生産者カップルは、ルーションという土地は真にすばらしいワインを生み出せるということを証明している。彼らの賭けに間違いはなかった。