フルコー家
フルコー家のプロフィール
フランス・ボルドー
シャトー ラギャレンヌ
Chateau la Garenne
認証は1994年より
貴腐ワインの王様ソーテルヌ地区で、稀少なオーガニックソーテルヌを造る。貴腐菌の活躍次第で収穫量も、ワインのできも全て決まってしまう厳しい環境の中で、極上の蜜のようなソーテルヌを生産。2013年からフェルボス家からフルコー家がシャトーを引き継いだ。
フルコー家の詳しい情報
【オーガニック歴】認証は1994年より
貴腐ワインの王様ソーテルヌ地区で、稀少なオーガニックソーテルヌを造る。貴腐菌の活躍次第で収穫量も、ワインのできも全て決まってしまう厳しい環境の中で、極上の蜜のようなソーテルヌを生産。2013年からフェルボス家からフルコー家がシャトーを引き継いだ。
ソーテルヌについて
ソーテルヌは、ボルドー地方の南部で造られる貴腐ワイン、高級極甘口ワインです。「貴腐」と書くと、高貴に腐るー???と、美味しいんだか不味いんだかわからない印象を受けますが、理由を聞くと納得してしまいます。
貴腐菌(ボトリティス シネレア)というカビが果実の表面につき、菌糸が皮に微小な穴をぽつぽつと開けて、そこから果肉の水分が蒸発し、その結果、糖度が高い貴腐ぶどうが得られます。しかし、この貴腐菌、やはりカビであることは間違いなく、果実がしっかりと完熟した状態の時につかないと、本当にぶどうを腐らせてだめにしてしまいます。「貴く腐って」(実際に腐るのではないですよ!)、初めて貴腐ぶどうが得られる訳です。その貴腐ぶどうでワインを造ると、甘く、独特の風味を持った極上のワインができるのです。
貴腐ぶどうができるためには、気候が大変重要。果実が熟す秋に、午前中は霧が立ちこめ、午後には晴れるという特別な条件が必要です。
そのため、ごく限られた地域でしか造ることができません。中でも、ソーテルヌは世界3大貴腐ワイン産地のひとつで、そのワインは「貴腐ワインの王様」と呼ばれています。
フェルボス家からフルコー家へ
2013年にポルコ・フルコーさんがこのシャトー ラ ギャレンヌを引き継ぎました。
造り手が変わってしまうと同じシャトーでもワインの質が変わってしまうことがあるのですが、ここシャトーラギャレンヌは、先代のご家族の協力もあり、 変わらずに素晴らしいソーテルヌが造られています。
シャトー ラ ギャレンヌ訪問レポート(2006年9月 フェルボス家)
シャトー ラ ギャレンヌは、その特別なワインの造り手さんです。夫クリスチャンさんと妻ニコルさん、夫婦2人の家族経営で(収穫時を除く)、7haの畑を所有しています。
畑に到着すると、それは9月末の朝だったのですが、まさに教科書通りの曇天でした。
暗い……
ソーテルヌに来た~と実感。それが、記念撮影をしたお昼前には、こんなにいいお天気に。低い位置に雲が多かったので、伝わりにくいかもしれませんが・・・。
昼前の空
やっぱりソーテルヌです!
訪問前にはフェルボス家の資料があまりなく、手元にあった写真を見て、フェルボスさんは静かな方だろうと想像していたのですが、お会いするととてもエネルギッシュで、ご自身のワイン造りについて熱く語ってくださいました。
畑
まず畑を見学させていただきました。全体を眺めると、ぶどうの木の高さや、果実の位置(下の方)は、大体揃っています。
ぶどうの木は放っておくといくらでも伸びてしまうため、剪定する必要があります。ぶどうは下から3~5つ目の節に実がなると決まっているので、フェルボスさんは、経験に基づいて葉と果実の数を計算し、光合成をすることでぶどうに栄養をもたらす「葉」は、太陽をたっぷり浴びる必要があるので「果実」よりも上に生えるように、また「果実」が同じ高さにつくように、冬の間に剪定しています。そうすると、ぶどうの葉に、平等によく日が当たるのでぶどうの品質が上がり、さらには収穫などの仕事も楽になります。
実際は、木の上部にも果実はなるのですが、上に葉がないと実は育たず、小さい球状の房になります(右写真参照)。甘く熟さないので、貴腐ぶどうの酸度が足りない時には、バランスを整えるため、この育ち不足の酸っぱいぶどうを足すこともあるそうです。収穫時は下しか見ないので、収穫者同士で、「あなたその(小さな)実を採り忘れているわよ」などとからかいながら、楽しく働いているそうで、この酸っぱいチビぶどうは収穫チームの和やかな雰囲気作りにも貢献していると言えますね!
下の方にたわわに実ったぶどうに目を転じると、すでに貴腐菌に覆われているものもありました。
白ワインは、「白ぶどう」と総称される黄緑色の果皮のぶどうから造られますが、貴腐菌がついたものは赤ワインを造る「黒ぶどう」のような色になっています。貴腐菌がつくと果実は次のように変化します。
(上の写真奥から)
- 第1段階:薄緑
- 第2段階:黒ぶどうの色
- 第3段階:カビだらけ、水分が抜けてしわしわ
段階が進むにしたがって、中の水分が抜けて糖度は高まりますが、1から2へ移行する時には、菌が糖を食べるので、若干糖度は落ちるそうです。
上の写真が、カビに覆われた貴腐ぶどうのズームアップ。正直言って、グレーのふさふさしたカビに覆われて、色も赤茶っぽく、皮もしわしわで、キモチワルイ…。しかし、勇気を出して口に入れてみると、ねっとりと甘く、すばらしく美味しいのです(そして果肉が少ない)。
こんなぶどうで最初にワインを造ろうと思った昔の人はすごい。しかし、何と言っても、自然に果実に付いて、果実を甘くして、特別な風味まで与えてしまう貴腐菌の妙技自体がもうなんともすばらしい!カビなので当然といえば当然ですが、貴腐菌の付き具合は天候などの自然条件に左右されるため、毎年安定していい状態の貴腐ぶどうを得ることは簡単ではありません。ましてやそれをオーガニックで栽培するとは、本当にフェルボスさんには頭が下がります。
…と、そこで同行者から、自然に疑問が出てきました。「そうやって、自然に活動する貴腐菌が貴腐ぶどうをつくるなら、慣行農業(化学農業)で使われる農薬は、貴腐菌を殺したり、悪影響を与えるのでは?」
それに答えて、フェルボスさんがオーガニック農業と慣行農業の農薬について、次表のように説明してくれました。
質問 | オーガニック農業 | 慣行農業 |
---|---|---|
使用農薬 | ボルドー液(硫酸銅の希釈液) | 化学農薬 |
貴腐菌の活動への影響 | 同右。 | 今のところ問題はない。貴腐菌はそもそも自然のもので、いつも畑にいる。基本的にぶどうは貴腐菌と戦っている。未熟な果実に貴腐菌がつくと実がだめになるが、農薬は完熟前にボトリティス菌がつくことを防ぐことができる。 |
効果の範囲 | 様々な病害。 | 1つの病害に対して1つの薬品(多種類の薬品を使うことになる)。 |
使用方法 | 葉の上にかけるのみ。20-30mmの雨が降ると流れてしまう。 | ぶどうの木に農薬を吸わせる(→樹液の中に入り、ぶどうに吸収される)。 |
次に、収穫について説明していただきました。何しろ、貴腐ぶどうの出来は貴腐菌の活動ひとつ、すなわち自然条件ひとつにかかっているので、質の高い貴腐ぶどう自体が十分に貴重なのですが、その性質ゆえ、収穫にも大変な手間がかかります。
通常、収穫というと、ぶどうを房ごとはさみで茎をちょきんと切るだけですが(それも十分大変ですが)、貴腐ぶどうの場合は、果実にしっかりと貴腐菌がついていなければならないので、場合によっては一粒一粒選別しなくてはいけません(もちろんカビのつき方によっては房ごと収穫できます)。
右の写真をご覧いただくと、房上部にはしっかり貴腐菌が付いていますが、下部はまだ緑色でカビが繁殖していないことがお解りいただけると思います。こういう場合は上部のみを選んで収穫しなくてはなりません。
信じられない!あの畑。畝がいくつもあって、畝には木がいくつも植えてあって、その枝には果実がいくつもなっていて、それを一粒一粒集める?!絶対私にはできない!!……と、気が遠くなりました。
フェルボスさんのところでは、収穫はソーテルヌのプロが行います。普通のぶどうの収穫は、アルバイトの学生が行うこともあり、特定のワイン専門の方がすることはほとんどありませんが、ソーテルヌの場合、一粒一粒の状態が本当に重要ですので、いい物を選び、悪い果実を捨てる判断が出来るプロが必要なのです。
プロが、通常でも3~5回に分け、15日間かけて行います。ただ、カビの状況は本当に天候次第なので、1996年にはなんと3週間も中断せざるを得なかったとか。完熟時に一気に行う通常のワインとは、なんと違うことでしょう。
フェルボスさん曰く、「同じ甘口ワインでも、ヴァンダンジュ タルディヴ(遅摘み、晩秋~冬季に収穫)と、ソーテルヌは全く違う。菌には一生がある。菌が一番活躍しているいいときに収穫することが大切。行き過ぎればただの腐ったぶどうになってしまう」
醸造
収穫したぶどうを搾ったら、酸化を防ぐため4℃以下で保存し、その間に果汁を落ち着かせます。フェルボスさんの場合、ここに工夫ポイントがあります!この冷却タンクに、かれこれ10~15年、ぶどう用ではなく牛乳用のものを使っているのです。自分だけではなく、他にも3~4軒はあるとおっしゃっていましたが、牛乳用は容量1000リットルで、効率がよく、25℃を4℃に下げるためにかかる時間は3時間、しかもぶどう用よりも断然安い!とのこと。
果汁が落ち着いたら、上澄み部分をセメントタンクに移して発酵させます。セメントタンクは温度管理していないので、自然に液温が上がり、発酵が始まります。
貴腐ぶどうは、発酵の過程も非常に面白く、何と抗生物質的働きによって、酵母の活動を抑制するそうです。
下図のように、酵母は糖をアルコールに変えます。
糖―――――→アルコール
↑
酵母しかし、ある時点になると、ボトリティス菌の邪魔で酵母が働かなくなります。フェルボスさんの場合、ワインは自然のものなので微妙に変わりますが、下図のように大体アルコール13.5~14%で止まるそうです。
(糖分)-(アルコールに変わった糖分)=残糖分ですから、アルコール発酵に使われなかった糖分が、ソーテルヌを甘口にします。フェルボスさんは、「もともと非常に糖度が高いから、貴腐菌の抗生物質的作用によって酵母の活動が止まらなければ、アルコール18~19%の極辛口ワインになるだろうね」といいます。
(ちなみに、ポルト、ドラドなどは、アルコールを添加して、酵母の働きを止めます)
発酵が止まったら、しばらくタンクに寝かせ、その後木樽(ボルドー産。木はマシフ サントラルの樫)に移して、1年間寝かせます。その後再びセメントタンクに寝かせます。このように呼吸が出来る木樽と酸化が起きないタンクで交互に寝かせることを繰り返します。
カーヴの温度調整ですが、冬季は電気で暖めることもあるそうです。暖めるとは言っても13~14℃にする程度なので、あまり使いません。夏は夜間に冷たい空気を換気扇で入れるのみ。どんなに暑くてもそれでカーヴの温度は20℃以下に保てるそうです。フェルボスさんは、ワインは生き物なので、エアコンで一定にするのではなく、環境に若干の揺れがあってもいいと考えています。
収穫から約3年後、ワインは瓶詰めされます。瓶詰め直後のワインは品質が弱いため、瓶詰め後3~4ヶ月経ってから出荷されます。
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ソーテルヌの楽しみ方
フェルボスさんのソーテルヌは、なんといってもそのバランスの良さが特長。色、香り、味わいすべてにソーテルヌの特徴を備えているのはもちろん、口に含んだときの香りと味わいのバランス、調和がすばらしいのです。余韻も非常に長く、ワインを喉に落とした後に、口を開くのがもったいないほど。少しずつ、ゆっくりと味わいたいワインです。
フェルボスさんいわく、ソーテルヌは場合によっては開けてから数日経ってから飲んだほうが美味しいこともあるし、開けた後バキュバンなどのワイン保存器具を使って冷蔵庫に入れれば、15~30日*はもつそうです。毎日少しずつ楽しめますね。
* ワインの液量や、状態によって日数は変わります。
ソーテルヌといえば、青カビチーズ(ロックフォールなど)やフォアグラ、デザートと合わせたり、デザートワインとして単体で楽しむのが一般的ですが、最近フランスの30~40代では、食前(アペリティフ)に軽く楽しむ傾向があるそうです。
皆さまも、どうぞご自分だけの楽しみ方を見つけてください。どのように飲まれても、このソーテルヌは、時間の流れがゆったりとした甘美な世界へ連れて行ってくれるはずです。
レポート:2006年9月(田村)