シュブラン家
シュブラン家のプロフィール
フランス・ボジョレー
ドメーヌ デュ クレ ド ビーヌ
Domaine du Cret de Bine
2010年から
ボジョレ地区南部で5世代前からブドウ栽培。当主は元農学校教授。ビオディナミを実践する友人のワインに感動したことから2008年にオーガニック転換を決意。自身も実践しテロワールを生かすワイン造りを追及。
シュブラン家の詳しい情報
【オーガニック歴】認証は2010年より
ボジョレ地区南部で5世代前からブドウ栽培。当主は元農学校教授。ビオディナミを実践する友人のワインに感動したことから2008年にオーガニック転換を決意。自身も実践しテロワールを生かすワイン造りを追及。
かつてローマ皇帝が通った街道から
シュブラン家のドメーヌはリヨンの市街地から西に35kmほど、ボジョレー地区南西端の丘陵部に位置しており、南側には標高1,000m級のリヨネ山脈、北側には「黄金の石の国」の異名をもつ、黄土色の石灰質の石でできた建物が並ぶ美しい村々を臨むことができます。
この地区は古くからブドウ栽培が行われており、およそ2000年前はローマ時代の重要な街道が通っていました。遺跡の発掘調査では数々の居住跡が見つかっています。実際にシュブラン家の畑のすぐ横にはかつてローマ皇帝のシーザーが通ったとされる道があります。
現当主のフランソワさんは祖父の代からワイン農家をしており、少なくとも5世代前からぶどう作りを行っている家系です。当時地元の農業高校で教鞭をとっていたフランソワさんは、彼の父が引退するのを機にドメーヌを引き継ぐ決意をしました。奥さんのマリーテレーズさんは研究所で幹部職を務めながら3人の娘を育て上げたキャリアウーマン。彼女も90年代には家庭とワイン造りの仕事に専念するため、退職を決意しました。
シュブランさんのドメーヌ名である「クレ ド ビーヌ」はオーガニック農法でワインを造ることに対する深い思いが込められています。
シュブランさんたちの家は「ビーヌ(bine)」と呼ばれる場所にあります。これは古い言葉で、「土の表面を耕す」という意味の(biner)という動詞に由来しています。土を耕すこと、これはまさにオーガニック農法でシュブランさんたちが実践していることです。また、ドメーヌは「クレ(cret)」 と呼ばれる急斜面に位置しています。この高度400mの丘は、長い長い年月をかけてなだらかになったのだそうです。
シュブランさんたちはドメーヌを名付けるにあたって、この土地の歴史や、今まさに実践していることを示している ≪ CRET de BINE ≫という言葉を使うことにしました。
テロワールを生かしたワイン造りのためのビオディナミという選択
シュブランさんたちがオーガニック転換したきっかけは、フランス南部でビオディナミ農法を実践する友人との出会いでした。友人の造る、その土地(テロワール)の特徴を反映した、品質、味ともに優れたワインに感銘を受け、EUのオーガニック認証と、ビオディナミの認証であるデメターを同時に取得することを決意したのです。それは決して簡単なことではなく、フランソワさんたちにとっても大きな、勇気ある決断でした。
オーガニックでのワイン造りには病気や不作による収穫量の現象など困難がつきものです。また、除草剤、殺虫剤などを使わないため肉体作業も増えます。
しかし、そんな数々の困難がありながらシュブランさんたちはオーガニックでぶどうを育て、ワインを造るこの仕事が好きだ、と言います。科学的な薬品を使わず、自然がありのままに凝縮されたワインを生産していることを、心から誇りに思っているのです。
雑草がたくさん生えた自然な畑
オーガニックへのこだわり
オーガニック、ビオディナミの実践でシュブランさんたちの畑の土壌はよみがえりました。たくさんの植物、みみずなどの虫たちが共生する畑は、腐植土が形成されて色が琥珀色に変わってきたがはっきりと見て取れるのだそうです。柔らかく耕された土壌にはぶどうの根が深く張りめぐり、ワインの仕上がりによりその土地の特徴が反映されていきます。
収穫はもちろん手摘み、醸造は、長年マヴィのボジョレーヌーヴォー造りの大切なパートナーだったドアットさん(現在は生産終了)と同じ、ボジョレー地方の伝統的な醸造法であるマセラシオン・セミカルボニックを実施しています。安価で流通するボジョレーヌーヴォーで使用されるマセラシオンアショー(熱を加え、色などを抽出する方法)に比べると時間と手間がかかる昔ながらの方法です。シュブランさんのドメーヌでは、25℃を超えない低温管理でゆっくりと行います。
酵母は、もちろん自家採取したもので、市販のものは一切使いません。また醸造中に発酵をコントロールするための二酸化硫黄の添加もせず、瓶詰めの際にわずかな気体を吹き込むのみです。
こうして昔ながらの製法で丁寧に造られたシュブランさんのボジョレーは、畑の特徴をそのまま感じられるような、素晴らしい作品となるのです。
醸造所のシュブランさん
目指すワインの味わい
シュブランさんが目指すワインはもちろん畑の特徴(テロワール)を生かしたワイン。ミネラル分豊かな花崗岩質の畑から採れたぶどうで造られるワインは、きれいな酸味と個性的なミネラル感を楽しめるバランスの良い仕上がりとなっています。しかも、オーガニックを実践し始めてからは、よりその特徴がワインに表れるようになったそうです。
これからのオーガニックワイン造りへの展望と日本のオーガニックワインを愛する人たちへのメッセージ
「オーガニックこそ、ワイン栽培の将来像だと信じています。健康上の問題、環境保護の観点、また様々な技術を駆使したワインと異なり、味の特性を存分に表現したワインをお客様に提供できること。私たちはオーガニックワインの市場が拡大することを望んでいます。それには、国内の大きな仲介業者を通すことなく、生産者が直接輸入者と関係を築けることが必要と思います。そういう意味で、今回マヴィと取引できることが、まさにその実現であり、とても嬉しく思います。」
「日本の皆さん、私たちが丹精こめて作ったワインをどうぞ味わって下さい。私たちのテロワールを存分に感じて頂けるように、できる限りの力を注いで仕上げました。お飲みになった印象や、お気持ちなど、聞かせて頂ければ嬉しいです!また、2014年はボジョレーヌーヴォーの解禁に合わせて日本へ行く予定です。皆さまと会えることを、一緒に私達のワインを味わうことを、心から楽しみにしています」
スタッフ訪問時、シュブランさんの畑に大きな虹が
スタッフの訪問記【2014年2月】
マヴィの新しいボジョレーヌーヴォーの造り手さんであるシュブラン家を訪問しました。
場所はボジョレー地区でもかなり下った南。ここはボジョレー特有の黄色い石がふんだんに出る町で「黄金の石の国」の異名を持ちます。確かに町の中にも黄色い石の建物がいっぱい!
黄色い石の建物(画像は6月出張時のもの)
そんな中、車を走らせドメーヌに到着。ご主人がにこやかに出迎えてくれました。さっそく畑の見学へ。
5世代前からぶどう造りを行う家系に生まれ、農業学校の教師も務めたご主人。畑でのお話を聞いていても、強い信念と作業に手間を惜しまない様子が伝わってきます。
「畑はわざと低い仕立て方にしていて作業が大変。耕すのも難しいんだ。このあいだ雇ったスタッフも、作業が大変すぎるからやめてしまった。来週から代わりの人が入る予定。」
畑の面積も元々8ヘクタールだったのを、オーガニックを始める際にすごく手がかかるから、一部人に貸すことにしたそう。でも貸した人から「大変でできない」と言われて返ってきてしまったそうです。実際に稼動している畑の面積は約6ヘクタールになります。
剪定(枝を切る作業)も、訪問時にはまだ始まっていませんでした。剪定はなるべく遅くまで待って樹液ができるだけ下に降りた後に行った方が良いと、以前ほかの生産者さんに聞いたことがあります。やはりこちらでも遅めのようです。
また、凝縮したぶどうを得るために、収穫量もこのあたりの通常の量より常に75%ほど少なくしているそう。 ただ昨年は55%にまでなってしまいました。良く熟したが粒が小さかったから。なのでその分さらに凝縮したぶどうです。
「だから『ボジョレー』は本当は5年ほど置くといいんだけど。まぁすぐに飲んでも美味しいけどね。」
とのことでした。
そんなご主人がワイン造りで一番大切にしているのは、「土地の味」をしっかりとワインに表現すること。 一般的なボジョレーよりも強い味わいを生む「花崗岩質」。この持ち味である酸とミネラルを何よりも出したいそう。 そしてその大きな助けになっているのがビオディナミだと言います。
「減農薬を25年続けてきて、化学肥料は22年やっていない。でも減農薬では土が良くならない。続けるのは難しいと感じていた。そんな時、南フランスに住むビオディナミを20年やっている友人のワインを飲んだんだ。」
それがシュブランさんのオーガニック転換のスタートになりました。
「飲んだ時にすごいショックだった。テロワール(=土地の味)を感じて感動した。それでビオディナミを始めるようになったんだ。」
「ビオディナミを始めてから、酸とミネラル、それが奥の方にしっかりと入るようになった。」
ボジョレーを試飲すると、まさにその言葉に驚きながら納得します。酸とミネラルの鮮やかさ。こんなに輝くような強くてきれいな酸とミネラルを、ボジョレーで表現できるなんて。
また醸造においてもビオディナミ特有のやり方を採用しています。葡萄の漬け込みはチエリーと同じ伝統的方法「マセラシオン・セミカルボニック」で行いますが、醗酵させる際、酵母を添加するのではなく、事前に良い葡萄を選び、それに付いている菌を醗酵させて、育て、加えると言う方法を行っています。 これはビオディナミで採用されている方法で、そのためには、選果する際も育てる過程も厳重な注意が必要だそうですが、この方法によって香りや味の広がりに様々な要素がプラスされるのだそう。
醸造所でそういった興味深いお話を聞かせてもらった後、奥様が手作りの昼食をふるまってくださいました。
ますは地元野菜のサラダ。みずみずしくて美味しい!これにかかっているヴィネガーが、クリュボジョレーの村「ブルイイ」で作っているビオディナミのもので驚くほど美味しい!マヴィ代表の田村が「これも輸入したい」と言ったのですが、あまりたくさん造ってないから輸入は難しいとのことでした。残念。
さらに、豚肉のローストマッシュルーム添え、じゃがいものチーズ焼き、かぼちゃのグラタンが並びました。どれもボジョレーに本当に良く合い、美味しく引き立てるマリアージュ。さすが自身で作るワインにぴったり合うお料理を誰よりもご存知です。デザートのアップルパイもとっても美味しい!
お料理上手な奥様は、元は研究所で幹部職を務めながら3人のお子さんを育て上げたというキャリアウーマン。その後、家庭とドメーヌの仕事に専念するため退職されたとのことですが、聡明な雰囲気をまとった、それは素敵な女性でした。
そしてお食事をしながら試飲させてもらったのは、2012年のボジョレー、2011年のボジョレー。
まず2012年のグラスを近づけた時の、ハッとするような綺麗な果実の香り。そして味わいは、酸、果実味、渋味ともにしっかりとした美しい仕上がりです。その次の2011年のボジョレーは、少し熟成感も出て深みを増した味わいで本当に美味しい…。
造りの良いボジョレーは熟成させてこそ。シュブランさんのボジョレー2011年を飲んで、これを改めてしみじみと思いました。
そしてご主人がこんな話をしてくれました。
「近くのレストランに出荷しているんだけど、そこのオーナーに“どうしてあなたの所のワインは毎年味が違うの?同じものが欲しいんだけど…”と言われてしまった。オーガニックで造っているから、毎年同じ味は出来ない。オーガニックだからこその違いなのに。」
ちょっと残念そうにそう話すご主人は、でもそれが誇らしげでもありました。1年として同じ形がない自然を相手に、その持ち味を存分に生かして造るワイン。その年だけの味わいをご紹介できるのは私たちにとっても本当に誇らしいことです。
シュブランさんのボジョレーヌーヴォーが届くのはもうしばらく先ですが、今年はどんな自然の味わいが瓶詰めされているのか、今から味わうのが本当に楽しみです。
レポート:2014年2月(野口)