オーガニックワイン専門店マヴィ設立以来のこと3
このページは、マヴィ店主・田村安が2008年に執筆したオーガニックワインへのこだわり、現地買い付けの際のこぼれ話、イベントのご案内などを当時のまま掲載しております。
マヴィ設立直前から、これから先の未来までを語る連載コラム。かなりユニークな道を歩んできた店主とマヴィの取り組みや想いが綴られています。
オーガニックワイン専門店Mavie開店1
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2004年夏、ふと思い付きました。「自分の店を持ちたい!」
コパン ド マヴィ加盟店が徐々に増えてきて、酒販店さんたちとお話しする機会が増えてきましたが、いつも考えてしまうのは「どうやったらオーガニックワインをわかってもらえるだろうか?」でした。いろいろと思い付き、試したいと思っても、他人のお店ですから無理はお願いできません。そもそもマヴィの全ワインを展示する場所がどこにもなかったのです。悶々とする中で、やはり自分の店を持つしかないという結論に達し、さっそく社員を集めて相談したところ、わっと盛り上がってしまいました。絶対反対されると思っていたのに、これは意外でした。
実はインポーターというのはお客様と直接お話しする機会がありません。自分たちの仕事がどう評価されているかは売上の数字でしか表れず、みんなフラストレーションがたまっていたのです。オーガニックフェスタやイベント販売でヘトヘトになりながらも一生懸命準備して、一日中スタンドに立つのも、お客様と話せるという嬉しさがあるからなのです。とはいえ、当時倒産の危機は脱したものの依然赤字経営!とても無理かとは思ったものの銀行に相談したら「融資します」の返事。どうも世間はカネ余り現象が起きていて、融資先探しに躍起になっていた時だったのです。ただし金利はかなり高めでしたけれど…。
さて、まずは情報収集、東京の地図を大きくプリントして、テーブルに並べ、スタッフと一緒に希望のエリアを出していきます。青山、広尾、麻布、新宿、銀座、目黒、代官山など、いかにも良さそうなエリアをピックアップして、インターネットの物件情報を検索。家賃の高さにあらためて溜息!そんな時、ふらっと麻布十番の不動産屋に立ち寄ったところ、赤坂に手頃な物件があったのです。赤坂といえばTBS、テレ朝などメディアの街。発信拠点としては申し分ありません。イメージは断然高級!家賃は予算よりもちょっと高かったのですが、不動産屋の若い担当女性が交渉してくれて下がり、即決しました。
とにかく9月末に店舗の賃貸契約をして、酒販免許移転申請を済ませ、免許目処が12月末となりました。
オーガニックワイン専門店Mavie開店2
お店のコンセプトはダミーボトル展示で「商品は店頭に置かない」。
ワイン保管適温は15℃で、人にやさしい温度の25℃より10℃も低く、共存は無理です。ワインは寝かしてコルク栓を湿らせておかないといけないのに、そうするとラベルは読めません。それに冷蔵ショーケースは高価で、そのうえ雰囲気はメタルな冷たい感じでオーガニック感の演出には不適切。ワインセラーはどうしても閉ざされた暗い雰囲気になってしまいます。そもそもワインは光を嫌うのですから仕方ないとはいえ、ワイン展示の課題です。ワインショップではよくボトルを手にとって読んでいるお客様がいますが、そのまま棚に戻すと、つまり「手垢が付いた商品」になってしまいます。何千円、何万円もする高価な商品が、そういう売られ方をされているのはとても不思議な気がします。私なら奥から誰の手にも触れられていない商品を出してもらった方がいい気分になれます。そこで考えたのが店頭にはダミーボトルのみを展示することだったのです。ダミーボトルならば25℃でビンを立てて置いても差し障りありません。商品自体は奥のワインセラーで真っ暗な中、しっかりと管理できます。店頭は選んでいただく場所であり、ストック置き場などではありません。ということは、店頭に同じワインボトルをたくさん置く必要はなく、ゆとりを持って並べ、しっかりと商品説明や生産者説明を掲示できます。
店舗設計は、高校の同級生井口さんのご主人が工学院の先生で、内装設計などを教えておられるので、お願いして担当してもらいました。お金が無く、コストは削れる限り落としても見栄えはするようにという無理なリクエストに応えていただき、石貼りの床や珪藻土の壁、キャンバス天井というデザインが決まりました。
オーガニックワイン専門店Mavie開店3
商品展示棚は店の顔です。安物は使いたくありません。しかし工務店に見積もりを取ったところ、外国産集成材を使ったものでも150万を超し、びっくり。そんな大金はありません。悩んで考えを巡らすうち、ふと浮かんだのが長野県飯田市の特約店、酒のしお澤の塩澤社長の顔です。しお澤さんのお店は山裾にあり、すぐ近所に木工所があります。伊那谷には杉の木はいくらでもあります。東京で頼むよりきっと安くていいものがあるのでは!果たしてその通りでした。一枚物の杉厚板で立派な棚でも40万円ほどと東京の1/3以下。トラック運賃を払ってもはるかにお得でした。そのうえ何といっても本物の持つ材質感は素晴らしく、とても気に入っています。家のリフォームなどでもコスト面から本物の木を諦め、新建材や外材を使わざるを得ない時、地方の木工所にお願いしてみるのもいいかもしれませんよ。
そして照明や音響機器はヤフーオークションで落とし、自分で取り付けました。これも質は落とさずコストダウンするにはとても有効です。人任せは高くつきます。何事も「自分が動く」ことが実現への一番の近道と実感しました。
とはいえ、ちょうど季節は秋で、ボジョレー ヌーヴォーからお歳暮の繁忙期と重なってしまい、開店準備に充分時間が割けず、きびしい中での準備。どちらも手を抜くわけにはいきません。土日休日返上で真夜中過ぎまでの作業、どうにか年末の引越しを迎えました。引越しもコスト削減。ワインセラーの引越しは小型トラックをレンタルして自分で運転。スタッフみんなで断熱材パネルやボトルを運び込みました。そして年末年始は大晦日も元旦もひとりで出勤、真夜中まで不眠不休の作業を続け、正月休み明けにスタッフが出社してもまだ照明器具が取り付いていないような状態。それでも陣中見舞いに来てくれるお客様や友人に励まされ、ようやく開店を迎えました。疲労は極度に達していましたが、お祝いのお花がずらりと並んだ中、2005年1月11日朝11時、自動ドアのスイッチをオンにして最初のお客様をお迎えした時、何とも言えないよろこびが湧きあがってきました。こうして日本初のオーガニックワイン専門店Mavieが誕生したのです。
オーガニックワイン講座・オーガニックワインの本1
ワインはなんだか難しそう、オーガニックはよくわからない。だからオーガニックワインは売れない。これは死活問題です!なので、とにかく一人でも多くの人にオーガニックワインのことを知ってもらわなくては、と始めたのがオーガニックワイン講座です。1999年以来、機会があれば酒販店の2階でも、ホテルの会議室でも、レストランでも、展示会場でも、おでんやさんのカウンターでも、とにかくどこでもやってきました。
これをベースに書き起こしたのがオーガニックワインの本です。春秋社の神田社長が、京都のレストランでマヴィのオーガニックワインに出会われ、それが縁で「本を書きませんか」とのお話をいただきました。そのレストランでも以前、講座+食事会を開かせていただいていたのです。2003年春から書き始め、2004年4月の第一回オーガニックフェスタにギリギリ間に合わせて発行となりました。軌道に乗っていない会社を墜落させないようにするだけでも大変なのに、文章をまとめて書くのは容易なことではありません。切れ切れの時間を見つけては書くという感じで、ほとんど移動中の電車や飛行機か空港でノートPCに向かうことになってしまいました。
本の中では「一般に出回っているワインとはどんなものか」もしっかり書いています。オーガニックワインと一般ワインの違いを説明する場合、避けて通れないからです。産地ごとに調合された香料添加、合成タンニンで渋い味を作ったり、色素安定化処理、メタカリをワインの中で化学反応させることによる亜硫酸塩のことなど、私の講座ではおなじみの業界裏常識ですが、ワイン業界にとっては消費者に明かしたくない秘密です。いわば衝撃の事実!これを暴露したワイン書はこれまで出ていません。つまりそんなことをワイン評論家が書こうとしたら、業界から抹殺されてしまうという恐怖があるということでしょう。神田社長からも、「田村さん、これを書くということはそういう覚悟が要りますよ」と事前に言われたのですが、業界に知古がいるわけでもないので、「構いません」と即答してしまいました。こうして出版され、これまでも応援してくれているエル・ア・ターブルが新刊紹介を出してくれたものの、他のメディアには書評が全くといっていいほど載りません。
- オーガニックワインの本(春秋社刊)
オーガニックワインの本2
そんな時、出版社にグルマンクックブックアワードでベストワインブックに選ばれたとの連絡があり、そんな賞聞いたことがなくいぶかしんでいたら、同じ2004年に栗原はるみさんが入賞したとの大々的な報道があって知られるようになりました。にもかかわらず私の本の書評は載りません。やはり広告主の意に沿わないことは避けたいというのがメディアの本音のようです。それでもオーガニックワインの本はゆっくりと売れていき、2年かかって初版が売り切れ、2007年春に改訂版を出せました。
オーガニックワインの本を読んで連絡をいただくことがよくあります。この本で「目からウロコが落ちた」と言っていただくこともあります。一方ワイン通を自称するするサイトでの評は「シュレッダーにかけるべき悪書」などともあります。騙まし、騙されるのがワイン業界とワイン通消費者のあるべき関係なのでしょうから、消費者の目にはしっかりウロコを貼り付けておかなければなりません。そんな護魔札みたいなウロコをポロリと落としてしまうのですから、まさに許しがたい悪書そのものなのでしょう。
その悪書の著者が狙われるのは世の常。論破する識者を立てるのかと思いきや、どうも積極的無視という戦法を取ったようです。
とは言え書店に並び、図書館に置かれ、amazonで検索すれば出てくるのですから、探そうとする人の目には留まります。
百貨店のバイヤーさんや有名ホテルのソムリエさんなども、本を読んだと言って連絡をいただくことがあります。某百貨店の課長からもそんな経緯で手紙をいただきました。百貨店の売場はスーパーや専門店に圧されて運営が難しくなっています。そこで上質を求める消費者をターゲットにした商品を求めているのですが、既存のワインではどこにでもあるものとの差別化ができません。やはり本物を扱いたいという思いだったのです。
まず催事で扱って様子をみたいとのことで、低温ショーケースを用意して並べてみたところ、飛ぶように売れてしまいました。デパート催事でそんな売り方をしたワインはなかったので、お客様の興味を引き、温度管理が必要なことや化学肥料、農薬、香料の話を聞くと、納得してまとめ買いやリピーターとなるお客様ができたのです。スタッフ向けセミナーやお客様向けのオープンステージ講座を実施したところ、とても好評で、数回催事を繰り返して充分な実績をあげて、さあ売場定番にということになり、展示用ダミーボトルを準備して、低温保管場所も確保できました。ところが、突然にストップがかかりました。他メーカーの経営者より役員レベルでクレームが付いたのです。「田村の言っていることは業界の秩序を乱す」というのがその理由です。現場が本物を扱いたいと願い、顧客より支持された実績があっても、マヴィはダメだったのです。
- オーガニックワインの本(春秋社刊)
オーガニックワインの本3
その後、別の百貨店本店地下食品売り場全面改装プロジェクトチームよりコンタクトがあり、マヴィ赤坂店には関係者が何度も来店され、他百貨店催事に出店している様子も見に来たり、マヴィイベントにも頻繁に参加されたり、ボジョレーヌーヴォーの試験的取り扱いなど、2年近い準備の末に担当課長より、「アラウンド40歳の上質を求める消費者」へ向けた目玉として、マヴィにフロア中央に出店して欲しいとの要請をいただいたのです。出店費用や掛け率、お客様カード割引の扱い、内装方針、制服は、などと細かい話を詰め始めて、最終確認が出ようというときに、やはりストップがかかりました。役員レベルの壁です。この百貨店さんの現場の方はその後も諦めきれず、既存ワインコーナー改装時にバイヤーからマヴィワインを20-30アイテム並べたいという申し出をいただき、棚割り、条件、POP掲示方法などすべて決まり、2週間後の初回発注見込みまでもらったところで、またもや突然役員レベルからストップがかかりやはり破談となってしまいました。バイヤーはアイテム選定の権限をもっていますから、通常取引でこんなことはありません。
だからワイン本でラジカルな真実など誰も書かない訳です。私みたいに書いてしまうと、会社経営を危険に晒すことになり、まともな経営者ならば誰もやるはずがありません。春秋社の神田社長に言われた「覚悟」 とはこのことだったのです。しかし私は全く後悔をしていません。昨今の食品スキャンダルが示すとおり、隠せおおせるのはしばらくの間だけで、真実は発露するもので、その時に有名大企業といえども倒産の危機に見舞われます。こんなニセモノばかりが蔓延っていては、いつかワイン業界も業界ぐるみ危機に瀕する日が来るだろうと思います。マヴィの価値はその時こそわかってもらえるでしょう。
- オーガニックワインの本(春秋社刊)
生産者訪問ツアー
マヴィでは機会を作って生産者を頻繁に訪問しています。生産者がどんな土地でどんな作業をどんな気持ちでやっているのか、それを自分の目で見て耳で聴き、肌で感じること。わたしはオーガニックワインをただ売るのではなく、伝えたいと思っていますので、これはとても大事です。大量生産商品を情報だけで取引して流通させる、いわゆるビジネスではなく、職人の技で生み出される作品をしっかり見極めた上で、一人でも多くの素晴らしいワインを探している消費者にお届けするというライフワークみたいなものです。ですから私だけでなくマヴィのスタッフにも可能な限り生産者訪問出張をしてもらっています。出張先での業務は見る、聴く、感じる、そして味わうことを通じて、生産者や風土について、ワインの周辺をどうお伝えするかを考えることです。
9月の旅では、ぶどう収穫を体験するとそのまますぐに仕込むのだという意味を、たわわに実ったぶどうの房にてんとう虫や蜘蛛がへばりついて、害虫を食べようと待ち構えているのを、五感から理解できます。
6月の旅なら移ろいやすい天気で雨と太陽と湿気がぶどうを茂らせ、成長させると同時にベト病やうどん粉病などの病害をもたらすことを。そして罹病した花や枝を黙々と切り捨てる生産者の姿を目に焼き付けることでしょう。
2月の旅には秋に仕込んだワインが出来上がり、遠くから集い、自慢の作品を持ち寄って較べあい、交換しあい、宴では踊り楽しむ生産者たちに出会えることでしょう。そして、ぶどう畑では春を待つ準備で、前年伸びた枝を慎重に剪定して姿を見ることでしょう。
そしていつ行っても家族を挙げての心をこめたもてなしがあります。農家手作りの料理にはレストランでは絶対に味わえないものがあります。冬なら暖炉の傍の食卓で、夏なら庭先に持ち出したテーブルで。単純にサラダやパテや肉の煮込みなどの簡単な料理なのに、おいしく楽しいのです。オーガニックの自家菜園から野菜をもいだり、近所の農家と物々交換したり、自家のオリーブオイルをかけたり、自分のワインをタップリ使ってコトコト煮込んだりと、お金の尺度ではない、都会とは全く違う尺度を実感します。
マヴィのスタッフだけでなく、2004年からはオーガニックワインを販売してもらっている特約店会コパンドマヴィにも呼びかけて、毎年生産者訪問ツアーを実施しています。パッケージツアーとは違い、観光やショッピングのほとんどない田舎巡りの旅でコストもだいぶ高いのですが、「自分の目で見たこと感じたことは自信を持ってお客様へ伝えられる」と、大変好評です。
そこで2008年には対象を拡げ、ソニーマガジンのライフスタイル誌リンカラン、エコツーリズム旅行社のリボーンとタイアップで、リンカラン読者やマヴィのお客様に呼びかけたところ十数名の参加者が集まって、6月に南仏ドウェル家とカバニス家を訪問しました。宿も民宿に泊まったり、料理実習会があったりと普通の旅行とは一味違ったものでしたが、大変喜んでもらえました。
初めての試みはうまくいきました。来年はもっと広く呼びかけて、たくさんの皆さんと行きたいと期待しています。
マヴィ設立以来のことの連載はこれで終わりとさせていただきます。散漫な乱文にお付き合いくださった読者のみなさんに感謝いたします。ありがとうございました。
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