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ブリヤール家

 



生産者:ブリヤール家

地方:シャンパーニュ
     


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収穫に思う(2002年9月)


9月末のパリからボアソー教授と待ち合わせのエペルネーに向かう電車に乗った。その日は、その時期のパリらしくすっかり寒くて、タートルセーターにジャケット、マフラーまで巻くいでたちである。天気は決していいとは言えなかった。



東駅から出発。進んでいくほどに、天気はますます悪くなってきた。実は数日前まで、南仏エクサンプロヴァンス近郊、さらにモンペリエにいた私は「これだから、北はね…」と太陽が見えないのを嘆く(現にモンペリエではまだ泳ぐことさえできた!)。ところが、全行程1時間半の最後の20分くらいだっただろうか、山を1つ抜けたのか、すっきりとした晴れ間が広がってきたのだ。そうか、やっぱりぶどうを作るところだもの、ここはしっかりと天気がいいのね、と一人納得していた。ところが実際は違って、シャンパーニュ地方に生まれ、その地方を非常によく知っているボアソー教授いわく、その日はここ何年来でこんなにいい天気はない、という日にあたったらしいのである。そういえば、畑で出会った人みんなが本当に嬉しそうに、「すごくいい天気でしょう。あなたは運がいいわ。」と口を揃えて言ってくれたものだ。晴れ女の本領発揮である。





早速ボアソー教授が、目的地はオヴィレにあるシャンパーニュ ヴァンサンブリヤールに連れて行ってくれた。事前に目的を話していたので、まずは写真が撮りたいというと早速奥さんがボトルとグラスを抱えてきて、注いでくれた。黄金のような美しい色。口に含むと辛口なのにどこかほんのり甘さを感じさせるような優しさがある。ワインを造っていると言うようりは、むしろ学校の先生という方がふさわしいような風貌のマリー=オディールとヴァンサン夫妻。大きな樽の前でグラスを掲げて記念撮影。



今年は、フランス南部を中心として夏の後半雨が続き、ワイン関係者には冷や冷やさせられるところだったが、ここシャンパーニュは非常にいいお天気だったようだ。ヴァンサンも喜びが隠せないようで、ここ数日の収穫のデータを見せてくれた。話によれば、糖度が高すぎるくらいというのだ。確かに11度の後半から 12度を超えている日もある。ボアソー教授もすごいね、と言っていた。糖度が高いのは、いいワインができる証ともいうべきもの、どうして高すぎて困るのか?と尋ねてみた。すると、シャンパーニュと呼ぶためには決まった範囲の糖度でなくてはならないとの答えが。低すぎてもだめだけれど、高すぎてもまたシャンパーニュと認められないというのだ。今年の収穫は、嬉しい悲鳴というところか。



ちょうどお昼時にお邪魔した私たちは、収穫のために集まっている皆さんの食事に一緒に入れてもらうことになった。その日のメニューはクリュディテ(にんじん、セロリ、ビーツなどを千切りにして食べるサラダ)、クスクス、チーズ、デザートにアイスクリーム、コーヒーのあとは食後酒まで登場した。ここの農家は、今でもこうして収穫の時期には、宿泊はもちろんのこと、きちんと家で食事を準備して(しかもこんなフルコースで!)、収穫者たちの労をねぎらう。今では、こんなによくしてくれるところは珍しいのだそうだ。現に、なんとここで収穫するのはこれで31年目というベルギー人や、20年は来ているというブルターニュ地方のオーガニックアイスクリーム製造者もいた。(デザートのアイスは彼のものだった。とてもリッチでおいしいラムレーズンだった)食堂は準備されていてもケータリングしたものが出されたり、ひどいところになると、昼は各自がサンドイッチか何か準備して畑で食べるのだそうだ。畑の近くに止まっている観光バスを何台か見かけて、さすがシャンパーニュ地方だからこうして観光バスが来るのだなと思いきや、それはこの時期だけ収穫にやってくる人を乗せるバスで、近郊の安いホテルにまとめて宿泊しているらしい。そんな現代事情も垣間見ることとなった。

食事のお供は先ほど開けてもらったシャンパーニュ。あんな贅沢なことをしたのだ、と今になってみて思うが、昼間から、ボアソー教授とすいすい1本空けてしまった。ぜひ味見をと言われ、自家製の食後酒にまで手を出す始末。



食事が済むと、収穫したぶどうを搾っている場所に連れて行ってもらう。非常に大きな昔ながらの仕組みで、今は重さをかける部分は機械になってはいるが、かなりの古さだ。



そして、横の溝からぶどうのジュースがどんどん流れている。ここでも味見を、と機械のすぐ横の地面のふたを開けると、その下にどんどんジュースがたまっていっており、そこから直接コップに受けて渡してくれた。香りがいい。そして私はこんなにおいしいものをいまだかつて飲んだことがなかった。とにかく甘い。でもそれは当然ながらぶどうだけの甘味だからちっとも嫌な甘さはないが、ネクターのような濃さがある。ワインよりもこれを飲んで暮らしたいと思うほどである。後味はかすかに桃のような感じがした。人によっては、これを飲むとお腹がゆるくなることもあるらしい。私は幸い何ともなく、本当においしい思い出になったけれど。



圧搾を担当していたのは、ヴァンサンのお父さんともう1人助手の方。当時、誰もが化学農業でぶどうを作っていたときもずっとオーガニックを通したお父さんは、近所でも相当変わり者呼ばわりされ、圧力もあったらしい。今でこそ、ちょうどその日の朝はテレビの取材が入ったほど、オーガニックがもてはやされ、彼らのやり方も理解されるようになってきたが、当時は大変な思いでやっていたようだ。その信念を貫いてくれたからこそ、こんなにもおいしいぶどうができ、さらにすばらしいシャンパーニュが造られるのだと実感する。

そして、いよいよ畑へ。近隣の畑と比較して、まず一目瞭然なのが畑を覆っている緑の草たちだ。


(左)近隣の畑、(右)ヴァンサンの畑

よその畑はぶどうとぶどうの間は見事なまでに、土しかない。ヴァンサンの畑は、生命活動がしっかり行なわれていることが証明されている。先ほどもりもり食べていた皆さんは、今はばりばり働いている。ハサミをもって、ぶどうを切ってかごに入れる人、かごがたまってくると下のケースに入れに来る人、それを選別する人、と食事時のいい雰囲気そのままの様子で仕事に励んでいる。ボアソー教授も本当にいいチームだ、と感心していた。造り手の人柄がいいから、こんな風にいい人が集まってくるのだろう。そしてこんないい雰囲気の中で摘まれるから、ぶどうもますます美味しくなるのだろう。決して大げさではなく、そう感じた。


バリバリ働く皆さん

そして、どこまで行っても味見である。今度は摘んだばかりのピノノワールをどうぞ、と差し出された。一体、誰が言ったのだろう。ワイン用のぶどうはまずいなんて。私はその言葉を信じていたから、どんな味がするのかとちょっと不安に思いながら口に入れた。これまた、恐らく私がこれまで食べたぶどうの中で一番と言えるほど、美味しかった。生涯忘れられないと言えるほどの味である。なんとも言えない甘味とかすかな酸味。小さな房だったとはいえ、食べてしまうのに全く時間はかからなかった。

こんな風に、シャンパーニュ ヴァンサンブリヤールの訪問は瞬く間に過ぎていった。その日照っていた太陽のように暖かな皆の顔が印象的だった。そして、その暖かさは、彼らが造るシャンパーニュにもそのまま見事に現れている。人の手によってなった飲み物であることが明白である。信じられなければ、市場に出回っているシャンパーニュと比べてみるのが一番だ。この違いがわからない人がいるとはとても思えない。

レポート:2002年9月 長谷川

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